古代ギリシアの叙事詩の韻(長短短六脚韻)について調べていて参考になるページを見つけた
「ホメロスのヘクサメトロス」という項で イリアス の冒頭を例に韻を解説してあるが、かなり難しい規則があるようで簡単な解説を読んだくらいでは理解は無理(^^;;
このページの中で「賽は投げられた」についても言及していて、ἀνερρίπθω アネッリープトー を「受動態命令法アオリスト3人称単数」としていて、自分ではこのページで「命令法中/受動態完了3人称単数」としていたのでちょっと焦って確認しようとしたが、あらためてギリシア語の動詞の活用は五里霧中暗中模索、よほど脳力を研ぎ澄まして心してかからないとワケが分からない(^^;;
違いは完了かアオリストかということになるが、直接法現在能動態1人称単数の語形は ἀναρρίπτω アナッリープトー この語形が辞書の見出し語になり、前置詞 ἀνά up が 動詞 ῥίπτω throw と結びついた合成動詞
以下に3人称単数の変化がどのようになるか確認してみる
最初に直接法能動態現在
ἀναρρίπτει アナッリープテイ、これが中/受動態になると ἀναρρίπτεται アナッリープテタイ
命令法は語幹 ἀναρρίπτ に 能動態では ετω 中/受動態では εσθω を付けて能動態 ἀναρριπτέτω アナッリープテトー、中/受動態 ἀναρριπτέσθω アナッリープテストー
次にアオリストの語形
アオリストの意味するところはとてもむずかしいのでちょっと齧ったくらいではとうてい歯が立たないが、動詞の意味することろを線ではなく点で表し、継続や完結の意味を持たないということになるだろうか
アオリストは直接法でのみ過去時制を意味し、接続法や希求法などそれ以外の法や分詞では過去を意味しない
また現在形では中動態と受動態が同形だがアオリストでは形が異なる
直接法能動態アオリスト ἀνέρριψε(ν) アネッリープセ(ン) 、受動態 ἀνερρίφθη アネッリープテー
合成動詞では接頭辞をいったんはずして、能動態は語頭の過去時制を表す ἐ と動詞幹についた σε(3人称単数以外では σα に人称語尾がつく)が直接法アオリスト能動態の、語頭の ἐ と動詞幹についた θη(3人称単数以外ではこの後に人称語尾がつく)が受動態アオリストの目印になる
命令法アオリスト能動態の語形は直接法アオリストの語頭の ἐ が落ちて語尾に αθω がついた ἀναρριφάθω アネッリープサトー、受動態は語尾に θητω を付けて ἀναρριφθήτω アナッリープテートーとなる
では完了はどうなるかというと、本来は語頭の子音と母音のセットを繰り返す「畳音」という形をとるが、ρ で始まる語は ερ を付加して作られる
直接法能動態 ἀνέρριφε(ν) アネッリーペ(ン)、中/受動態 ἀνέρριπται アネッリープタイ
命令法完了は能動態が直接法現在の時と同じ語尾 ετω を付けて ἀνερριπέτω アネッリーペトー、受動態はアオリストの場合と同じ θω がついて ἀνερρίφθω アネッリープトー
直接法アオリスト受動態が ἀνερρίφθη アネッリープテー なので語尾が η か ω かの違いになるのはちょっと紛らわしい
ここまで確認してきたのは3人称単数の場合なので、当然1人称、2人称もあり、それぞれに単数、複数があるので6通りの変化をすることになる(さらに特に対になったものに使う双数もある)
また法は直接法、命令法以外に接続法、希求法があり、時称は現在、アオリスト、完了以外に未来、未完了過去、過去完了、未来完了があり、それぞれに能動態、中/受動態(未来とアオリストでは中動態と受動態が別の語形)、さらに不定詞や分詞もあって、いったいどれだけの変化をするのか数冊の文法書のページめくってみるがまだ全貌がつかめない(;°0°)
話を元に戻して
このように確認してみると ἀνερρίπθω アネッリープトー はやはり 命令法中/受動態完了3人称単数 で間違いないようだ
(Wiktionary でもそうなっているのだが)
そこであらためて ἀνερρίφθω κύβος アネッリープトー キュボス だが、現代日本語では正確に訳すことは難しいが
賽は投げられたるべし
とすると、「られ」が受動、「たる」が完了、「べし」が命令と、ギリシア語が持っている意味を漏らすことなく訳すことができる
そして、屈折語と膠着語の違いもあらためて分かって面白い(^^)
現代語より古代語の方が複雑な文法組織を持っていることはどのように説明されているのだろう?古代に比べたら現代は人間関係や社会が格段に複雑化しているのに言語は単純化している現象はどう考えたらいいのだろう
言葉を獲得した人類のあらゆる事象や動作を言語化することへの飽くなき情熱、一言で言えば古代人の言葉への強い執着が古代語には込められているように感じられる
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