モーツァルトとクラヴィコード
- yasushi-takahashi
- 2021年9月17日
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更新日:5月27日
モーツァルト所縁のクラヴィコードは3台が現存しています。そのうちの1台がReise Klavichord つまり旅行用クラヴィコードで、J. A. Stein 1762年作の楽器です。
1763年6月、モーツァルト一家は足かけ3年半にも及ぶ大旅行に出発しました。ザルツブルクからまずミュンヘンへ、10日間の滞在の後に次に立ち寄ったのは父レオポルトの生まれ故郷でもあるアウクスブルク。ここには天才的な楽器製作者シュタインが住んでいました。
事前に注文していたクラヴィコードをこの時に受け取ったのでしょう。父レオポルトは1763年8月20日付の手紙で「私は、アウクスブルクのシュタインの作ったかわいい(artiges)クラヴィールを購入しました。これは私たちの旅の途上での練習に大きな働きをしてくれます。」と書いています。
長さ1mちょうど、音域はC-f3、54キーの小さな楽器です。低音には巻線が1本づつ張られ、中音はブラスの複弦、そしてこの楽器の大きな特徴でもありますが高音にはスチールの複弦が張られています。高音にスチール弦を選択することでその部分の弦長が長くなり、直線のブリッジがケースの長さ方向に対して80度ほどとかなり"立った"角度で取り付けられる絶妙な設計を可能にしています。ケースは赤みを帯びた重く硬い材で、馬車での移動を考慮して頑丈に作られたのでしょう。

この楽器の忠実な複製楽器で鍵盤楽器奏者の筒井一貴さんが演奏しています。
モーツァルト所縁のクラヴィコードのもう1台は、現在ザルツブルクの生家に置かれているもので1760年頃に作られた5オクターブ61キー、unfrettedの作者不詳の楽器です。
脚が直接楽器の底にねじ込まれていることもあって5オクターブの楽器にしてはスリムで軽快な印象です。
この楽器の内側には、妻コンスタンツェの筆跡で「(1791年の)5か月間に、このクラヴィコードで魔笛、皇帝ティートの慈悲、レクイエム、フリーメーソンカンタータを作曲した」と書かれたラベルが貼られています(B. Brauchli The Clavichord p. 224)。
映画「アマデウス」で描かれているように、一般的にはモーツァルトはフォルテピアノで作曲したと思われていますが、このコメントによって実際にはクラヴィコードで作曲し、幼少期から晩年までクラヴィコードとの関わりの深かったことがうかがわれます。

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