新しいチェンバロの設計2
- yasushi-takahashi
- 2022年3月10日
- 読了時間: 3分
更新日:5月20日
その後諸事情あって楽器の長さを2m以内にとどめることと、最低音をGGまで伸ばしてGG、AA、AA#とGG#を省く並びに設計変更
GGまでとすると2m20〜30cmくらいはほしいところなのでイタリアンらしさを保てるかどうかが問題
全体のスケーリングを当初のc2=278mmから258mmと短めにして、低音の折れ曲がったブリッジに載せる弦を増やしてみた

応力を比較すると、以前作ったC/E-c3のショートオクターブのイタリアンに近いカーブになって、低音の応力はショートオクターブの楽器よりは高くなる(=弦長が長くなる)ので低音のクオリティは確保出来そうだ
次はグラフから読み取った応力をもとに弦長を計算して原寸大の図面にしてみる
ここでのポイントは応力から割り出した弦長が木を曲げてつくるブリッジのカーブに上手く乗るかどうかだが、実際はすんなりとは乗ってくれない
ブリッジより細い木をCとFの弦長をプロットした図面の上で曲げてみて自然なカーブの上に乗るように修正を重ねる
弦長はブリッジだけではなくナットの位置によっても決まるので基本的には直線のナットの形状も考慮する必要がある
ナットはフレンチやジャーマンなどイタリアン以外のチェンバロはほぼ直線で、低音弦が長く高音弦が短くなるように斜めに配置されている
イタリアンも基本的ににはそうなのだが、多くの楽器が中音が少し鍵盤側に寄る「くの字」になっている
これはイタリアンのブリッジが高音から中音まで深いカーブを描いていることで中音が短くなり過ぎるのを補正した結果

左がイタリアン(F.A. 1677)右がフレミッシュ(Hans Moermans 1584)いずれもFrank Hubberd Three Centuries of Harpsichortd Making による
ただし直線を2本組み合わせた「くの字」ではこの補正は近似的なのもで、応力カーブに忠実に補正するとナットは2か所でわずかに曲げてやる必要がある
とはいえ、たとえ近似的だったとしても応力や音階の周波数を計算することなくナットをわずかに曲げることで弦長を補正していた当時の製作者の洞察力には驚くばかりだ
このナットの2か所のカーブで弦長を補正するのは師匠の高橋辰郎氏オリジナルのアイディアのはずで、私が設計について教えてもらっていた頃、師匠は電卓で計算すると言っていた
1990年前後のことだから一般にはパソコンはまだ一部の新し物好きのものだった
ブリッジのカーブが決まったらブリッジとベントサイドやスパインとの間のスペースを考えながらアウターケースのラインを決めればチェンバロの形になる
次の段階は張力によるヒッチピンレールの強度やたわみを考慮しながらヒッチピンレールの段面形状や支える補強材の位置や数を決めていく
高音は1本あたりの張力は低いがヒッチピンの密度が高く角度も直角に近いので単位長さあたりの張力は大きくなるから補強材を多く配置する
反対に低音は1本あたりの張力は低いがヒッチピンの密度が低く角度も浅くなるので単位長さあたりの張力は小さくなるから補強材は少なく配置できる
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